わすれもののポケット信州が好きだった私がいつかより近い奈良!大和に惹かれるようになって・・・遠い日々の記。 「うつそみの人なる吾や・・・」 過ぎし秋の一日、近鉄線桜井駅から古事記のままな地名に誘われ南へと歩き出す。 いつしか人家もまばらとなり、幾重にも連なる山々の麓を歩いていた。 色づく寸前の深い緑、古えから変らぬであろう倉梯(くらはし)川のせせらぎが私をいつしか遠い古事記の世界へと誘う。 この風景の中を時の権力者に楯つき、愛し合った若者達は逃れていったのか・・・ 高貴なるが故に命を落とさねばならなかった恋人達。 壮絶な権力争いと奔放なる愛を今も変らぬ多武峰とこの深い空は見てきたのだろう。あまりにもやさし気だ。 裳裾は風にゆらぎ黒髪をなびかせ駆けてゆく乙女の姿が私には見えてくるのである。 梯立の倉梯山を嶮(さが)しみと 岩かきかねて 我手取らすも 梯立の倉梯山は嶮しけれど 妹と登れば 嶮しくもあらず 多武峰を越え、夕焼けを仰ぐ頃、飛鳥の里に立っていた。 小さな丘と見える名もなき古墳・・・暗い石室からは深い、嘆きがもれている。 とりわけ深い哀しみを漂わす石舞台。 車窓から悲劇の皇子、大津の眠る二上山が消えた時、小さな旅は終わった。 今度、あの山に登ってみよう、春の光が黄泉の国の貴人達を目覚めさせぬ内に。 いつか吉野までも行きたい。決して行き着く事のない旅だけれど・・・。 倉梯山を彷徨ったのは仁徳(おおさざき大王)天皇の思われ人と 「バラの騎士」役の弟皇子!磐之媛(大后)の強すぎる愛・・・。 そして恋人達の悲劇の歴史は万葉歌に紡がれていく。 |